拙者放浪記 日光街道杉並木



〜〜〜拙者放浪記 日光街道杉並木



後で知った。
その場所は日光街道杉並木という有名なとこだったようだ。
ちなみに日光といっても東照宮のある日光にあるわけじゃない。
おそらくその日光に続く道。という意味で付けられたのだろう。

鬱蒼とした場所だった。
背の高い杉たちが頭上を覆い付くし、その杉たちのところどころに女郎蜘蛛が巣を張っていた。
辺鄙な場所というわけでもなく、隣の車道には沢山のダンプカーや乗用車が走り去って行く。

車道と歩道に分けられた道だったが、残念ながら歩道の方は舗装されていなかった。
ジャリと土くれの道。
グネグネとその道は、勝手気ままに生える杉をよけるかのように蛇行して続いている。

おかげで車体をトップスピードにすることができない。
まれに道の中にまで木の根が入り込んでいる場所もあって、転倒しないよう注意がいた。
そしてそのそんな道が、数キロ続くようだった。

猛烈に車道を走りたい欲求にかられた。
・・・が、実際にやってみると明らかに「身の危険」を背中に感じて、慌てて歩道に回避した。

行けども行けども杉ばかり。
雰囲気も怪しげ。
主に周囲には運送関係の会社や、運送を使う工場が多い。
おかげさまでダンプの出入りが頻繁なようで、ときおり何度も何度も通り過ぎるダンプに地面が揺れる。
行けども行けども杉ばかり。

悪い場所でもない。
樹齢の高い木々が多くて、眺める分には味わいがあった。
ただ・・・それがキロ単位で続くと、いい加減半分遭難したような気分にすらなってきてしまう。
日暮れまでにたどり付きたい場所があるのに、速度の出せないうねる道。

自転車は根性で動く。
自分に負けたとき、その車輪が止まる。
だから負けちゃいけない。
あとどれだけペダルをこげばいいのか、あとどれだけ自分と戦えば良いのか。
今日中に宿泊施設までたどりつけるのか。

そんな思考を頭から振り払って、またペダルを踏み続ける。
猛烈にMP3プレイヤーが欲しいと思った。
こんなとき好きな音楽でも聴ければ、こんな気分も消え去って、この杉たちを肴(さかな)に楽しめるのに。

仕方ないので頭の中で音楽を流した。
一部思い出せなかったり、音程が違っていたり。
どうにもお気に入りの曲が頭の中に出てこない。

頭の中が袋小路になったら、外的な刺激を与えてやれば良い。
・・・けれど、今は外的に音楽を自分に刺激できないわけで。

・・・・・・。
・・・・・・・。

物語でも妄想することにした。
大まかな話の流れや舞台設定、主人公が決定したところで、やっとこさ杉並木を抜けた。

一年で一番紫外線の多い季節の陽射しが肌を焼く。
次回からは日焼け止め持参しよう。
そう心に決めて、お腹すいてきたことだし昼食どころを探しながら旅を続けた。


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